【紙芝居が押した小さな背中、大きな一歩】

本が誰よりも好きな女の子がいます。
お友だちとの遊びの合間に時間ができると、ソファーによりかかり、ナナカラの本棚にある本を手に取っては読んでいます。

特に、歴史関係の本が大好きで、そこに登場する歴史上の女性に強く興味をもっています。読み終わったあと、「紫式部」「清少納言」「小野小町」「お市の方」・・・などを自分でイメージして、自由帳にそーっと描いたりしています。スタッフが、「何書いているの」と見ようとすると「恥ずかしいから・・」と隠そうとしますが、「十二単衣上手だね」とほめたりすると、はにかんだようにニコッとしてくれます。

そんなある日、スタッフが、休み期間の「図書館に行こう」というイベントで彼女に声をかけると、いつになくはっきりと「行く!」という返事がありました。ナナカラのミニバスに乗って5分ほどのところにある図書館は、子どもたちが本に囲まれているような造りになっており、本の館に自分たちが迷い込んだような感覚になるところです。

そんな環境の中、彼女も面白そうな絵本や物語を手に取り、興味深そうに読んでいました。
一方で、お友だちや他の学年の子どもたちは、「読み聞かせに使う紙芝居はどれにする?」と話し合っていました。スタッフが彼女に、「あなたも紙芝居やってみたら?」と何気なく声をかけましたが、「ウーン・・・」「どうしようかな・・」「ちょっと恥ずかしいかな・・」となかなか一歩を踏み出せない様子でした。

「休みごとに紙芝居の読み聞かせがあるかもしれないから、紙芝居だけでも見ておこうか」と、再びスタッフが彼女に声をかけ、一緒に紙芝居のコーナーに向かいました。そこには、お友だちや他の学年の子供たちが紙芝居を興味深そうにみており、それを目の当たりにした彼女は、「やっぱり(私も紙芝居)やってみる」と自ら言いました。その後、彼女は自分の面白そうな紙芝居の貸し出しを受け、ナナカラに持ち帰りました。

ナナカラに戻ってからは、他の紙芝居担当のお友だちと一緒に習い事ルームに入り、紙芝居の練習を始めました。以前に、先輩たちが読んでいたのを思い出しながら、大きな声で・・を意識をしているようですが、なかなか思ったような声の大きさにはなりません。スタッフからは、「もうちょっと大きな声で読めるかな」とアドバイスを受け、「うん、わかった」ともう一度読んでみたりして、練習を重ねました。
前回、先輩の紙芝居の読み聞かせの後に、遊びで先輩のまねしてやってみた時とは違い、なかなか大変なことに気づいたようです。本番前日にも習い事ルームに入り、みんなで練習をしていました。

ついに読み聞かせの本番の日がやってきました。スタッフからは、事前に「最初の一言目の声の大きさが大切だよ!」「最初の1枚目を頑張って読めば、あとは自信がついてうまくいくよ!」とアドバイスを受けていました。でも、心臓はドキドキしているのが見ている側にも伝わります。彼女にとって、多くの人の前で紙芝居を読む経験は初めてです。
「それでは、次の人に読んでもらいましょう」とスタッフから彼女に声がかかります。紙芝居をケースに差し込み、みんなの前に座ります。彼女からは紙芝居の向こうのみんなの顔は見えませんが、自分の前のお友だちが読んでいる時も、みんな紙芝居と読んでいる自分たちの声に集中していることは分かっています。第一声に意識を集中させ、読み始めました。無事、1枚目が読み終わり、サポート役のスタッフが紙芝居を2枚目と差し替えます。3・4枚目と読み進める中で、面白い場面にさしかかり、彼女が読んだ場面に合わせて「アハハ!」とみんなの笑い声があがります。
あと数枚で終わりますが、緊張は続きます。そして、なんとか最後まで読み切り、ほっと一安心した様子。
みんなからの拍手が送られてきます。スタッフから「上手だったね!」とほめてもらい、後ろの男子は「今の話面白い!」などと言っています。彼女を見ると、とにかく無事終わってよかったという気持ちと、みんなに喜んでもらえてよかった、頑張って練習したかいがあった、という気持ちが入り混じったような表情をしていました。次回も挑戦して、もっと練習して上手に読んで、みんなにもっとよろこんでもらおう、という気持ちもわいてきたようです。

今回のお話は、ナナカラの中でのお子さんの日常の1ページを切り取ったものです。大人にとってみれば些細なお話かもしれません。また、その子ども自身も、しばらくすると忘れ去ってしまうようなお話かもしれません。一方、子どもたちは日々小さなチャレンジを続けています。その中で変化・成長を遂げることもあります。時々うまくいかず意気消沈することもあります・・・。でも大切なことは、小さなチャレンジを続け、子どもたちが“変化の感覚”を持ち続けることではないでしょうか?併せて、その変化を大人たちもともに感じて共有することではないでしょうか?また、チャレンジし続けるなかで、子どもたちがうまくいかなかった時にこそ支えてあげることではないでしょうか?失敗という困難を乗り越えることは、子どもたちにとって本当の大きな自信を得るチャンスでもあります。
ナナカラでは、今回お伝えしたような、子どもたちの「小さな変化の物語」を大切にしています。子どもたちが、変化を感じてもらえたり、経験を深めてもらえたりするようなイベントや環境を整備しています。
今日も、子どもたちの小さなチャレンジと変化は続いています。