2023年1月28日、約1年間かけてナナカラの子どもたちが作り上げた作品を飾りました。
※1・2学期の様子はこちらの記事より。
まず、開催にあたって当日、保護者のみなさまに見ていただいた動画とメッセージをぜひご覧いただきたいです。
VALUE OF ART 展の開催にあたって
アフタースクールナナカラは「僕たちの前に道はない。僕たちの後ろに道はできる。」をコンセプトに日々子どもたちと一緒に試行錯誤をしています。子どもたちの好奇心や個性に合わせて伴走することは想像以上に難しいことです。私たち大人が道をつくり、その上を子どもたちに歩いてもらったらどんなに楽だろうと考えることもあります。しかし、それでは子どもたちが「生きる力」を養う機会を失ってしまいます。だから、私たちは毎年テーマを変えながら、その時に在籍している子どもたちと悩み、考え、作り上げる方法を選んでいます。
2023年度、ナナカラ大学は「アート思考・ミュージアム思考」をテーマに進めてきました。現代は、テクノロジーの進化によって、あらゆるものを取り巻く環境が複雑さを増し、将来の予測が困難な時代だといわれています。またコロナウィルスの影響で常識が非常識になり、世界が急速に変化する中で「これさえやっておけば大丈夫!」という唯一無二の正解を探し続けるのは不可能です。
今、子どもたちが養うべき「生きる力」とは“正解を探し出す力”ではなく“自分なりの正解をつくる力”“自分なりのものの見方”を育て、「自分の軸」を持つことだと私たちは考えています。
アートを通して1年間、「自分の軸」を育ててきました。
1学期は教室に名画を飾り、日常的に絵画と対話する環境を作りました。子どもたちは絵画に自分なりのタイトルをつけたり、友だちと話し合ったり、自由にアートを観ることの面白さを知っていきました。また、イベントで美術館で本物に触れる体験もしました。
夏休みは元国立博物館の研究員の方のワークショップを実施したり、バンクシーを題材にアートと平和について考えました。
2学期は実際に作品作りを始め、美術大学出身のナナカラスタッフがアルミホイルを活用した立体アートを紹介したり、コラージュづくりなど自分の想いや考えを形にするアート手法をたくさん学びました。冬休みには創った作品をお互いに見せあい、友達の作品から刺激や閃きを受けていました。また自分の作品作りだけでなく、ミュージアム実行委員をはじめ多くの子が本日の開催に向けて準備も行いました。
ここで、今回のミュージアムのタイトル「VALUE OF ART展ー作品の価値は私が決めるー」について少しだけご説明をさせてください。
ミュージアムのコンセプトやタイトルは事前に決めず、実行委員会のメンバーとも話し合いながら、2週間前に決めました。制限を設けず、自由に作品を作った後に決めた方がナナカラらしいと思ったからです。
この展示会の特徴は子どもたちの作品に値段がついていることです。
なぜ値段を付けたのか?3つの視点を学んでほしかったからです。
一つ目は「客観的視点」です。自分の軸は普段、頭や心の中にあり、本人も見ることはできません。作品を通して「視覚化」し、値段をつけることで「数値化」し、ストーリーを創作することで「言語化」し、子どもたち自身も自分の軸と客観的に向き合ってもらいました。
二つ目は「社会の視点」です。自分の中にある価値観を表現した作品を社会的な価値(値段)に落とし込むことで、「私の作品の特別な部分はなんだろう?」「この作品でどんなメッセージを伝えたらよいだろう?」と社会(周囲)を意識しながら、作品に向き合ってもらいました。自分の個性を社会と接続する感覚を子どもたちには是非身につけてもらいたいと思っています。
三つ目は「新たな発想の視点」です。自分の作品にタイトルや解説をつけた経験はたくさんあると思いますが、値段をつけたことがある子は少ないのではないでしょうか?自分の作品に値段をつけるという新しい経験によって、子どもたちの発想の幅が増えたように思います。
値段が高い、低いは関係ありません。値段も含め、作品そのものに彼らの軸が現れています。大人の正解フィルターで作品を評価せず、ぜひ、子どもたちが1年間かけて考えてきた「自分なりのものの見方」「自分なりの正解」を感じとっていただけると嬉しいです。
ナナカラ大学 学長 尾崎えり子
ミュージアムの様子
作品の紹介(一部)
保護者からの感想
「この度は素敵な企画をありがとうございました。個人の作品と、何人かで協力して作り上げた作品が所狭しと並んでいるのを見て、圧倒されました。例えば、同じ絵画を見ても感じることは人それぞれで、それでいいんだということを体感していることを知り、いい経験をしているなと感じました。みんながそれぞれ自由な発想で色々なものを作り、感じ、一緒に取り組む楽しさを知る貴重な機会だったと思います。先生方におかれましては、準備等大変だったことと思います。ありがとうございました。」(小学校1年生の保護者)
「皆さんが、それぞれの世界観をもって取り組んだ作品は、どれも素敵でした。見慣れた名画も、皆さんの創造力を得ることで、趣きの違う素晴らしいアートになっていて、とても楽しめました。1億円や89円といったお値段設定も楽しかったです。」(小学校1年生の保護者)
「素敵な作品がたくさんあり、皆一生懸命作っている姿が目に浮かびあたたかい気持ちになりました。自分の作品に値段をつけるという試みは、いろいろな角度から物を評価する良い経験になるし、個性が出て面白いなと感じました。」(小学校1年生の保護者)
「フルイドアートやコラージュ、木の作品、タイトル付けなど、非常に多彩で楽しかったです。今年1年間、娘は大人の塗り絵やスクラッチアートなど、ナナカラの影響を受け、家庭でも楽しんでいました。当日の飾り付けや作品紹介もどれも大人と同じ本格的なものでした。とても見応えがありました。ありがとうございました。」(小学校2年生の保護者)
「元々娘はアートが好きなので、とても興味深く活動に取り組めていたと思います。フルイドアートも、次回はこうするともっと綺麗になるだろう、とお友達の作品からも刺激を受け、解説してくれました。西洋美術館訪問も、とても感銘を受けていました。お正月明けに、東博で長谷川等伯の墨の濃淡で動きを感じられる松林図屏風も見に行きました。帰りに、ロダン前で考えるポーズをとりました!アートを楽しんでいます!」(小学校3年生の保護者)
「それぞれに工夫や個性があって、素晴らしかったです。自分の作品を紹介するときのキラキラした顔を見て、こちらも嬉しくなりました。」(小学校4年生の保護者)
「どの作品も素敵でした。点数化されることないため、それぞれに素晴らしいと言えるのが美術の良い所だと思いました。」(小学校5年生の保護者)
教室の先生たちの感想
「周りの声が聞こえなくなるくらいみんな集中して制作に取り組んでいました。
頭の中にある形を早くアウトプットしたい!!湧き上がる気持ちが抑えられないような感じでした。勢いのある、ダイナミックな作品が出来上がっていたと思います。村から送っていただいた木材の入った段ボールが一日でほぼ空になるほどでした。子どもたちの集中力や熱中するパワーを感じました。
また、その逆でじっくりと毎日作品に取り組み、材料を足したり引いたりして自分はこれで何を表現したいのか、時間をかけて作品に向き合う子もいました。アートが好きな子はもっと好きに、少し苦手な子でも様々なアプローチの仕方があると知ることで苦手意識をもたずに作ることに取り組むことができていたと思います。」
「ミュージアムでは保護者のみなさんにはあえて児童の想いや意図はお伝えしませんでした。参加された皆さん、作品の前でじーっと「対話」をされていました。この子はどんな想いで、何を軸にこの作品を作ったのだろうか?と考えることを楽しんでいる様子でした。」
「値段をつけていたこともあり、『この作品買いたいな』と我が子ではない別の子の作品に興味を持ってくださる保護者の方がいらっしゃいました。ミュージアムを通して、我が子以外にも興味を持ち、想いを馳せている様子を見れてとても嬉しかったです。」
「自分たちの作品が本物の個展やミュージアムのように美しく飾られているのが子どもたちはとても誇らしそうでした。」